女将のお針箱

魔法使いのニラニーラ


彼女の名前は ニラニーラ

魔法使いだ と

僕は思っている

「ニラニーラ」も

僕が勝手につけた名前だ

 

魔法使いといえば

黒い服を着て尖った帽子をかぶり

わし鼻でほうきに乗って空を飛ぶ

 

でも 目の前に立っている人は

ヒョウ柄のカットソーに

黒いレギンス

ちょっと大阪のおばちゃん風味

 

犬の散歩コースで時々会う

謎の人物だ

いつも公園の脇に佇んでいる

 

なぜだかわからないけれど

このおばさんには

何でも話せる気がして

時々悩みを聞いてもらっている

不思議な人なんだ

 

いつもはやんちゃな

愛犬「大五郎」も

彼女の前ではおとなしい

 

おや 坊や

今日はなんだか難しい顔してるね

 

マリリンホイホイ マリリンホイ

 

ニラニーラが魔法の呪文を唱えると

 

足元の地面が

前から後ろにどんどん流れていく

僕だけが止まったままで

動けない

大五郎も僕の隣で

尻尾を下げて怯えている

 

夕べ見た夢とそっくりだ

 

こんな夢を見たんだろう?

 

僕の心を見透かしたように

ニラニーラはニヤリと笑った

 

クラスの同級生たちは

受験を控えて

日々勉強に励んでいるのに

僕だけが置いてけぼり

そんな焦りから 

こんな夢を見たのだろうか

 

あんたはね

決して

止まっているんじゃないんだよ

あんたの身体の中の速さと

周りの世界の速さが違うだけさ

 

身体の中の速さは 

ひとそれぞれ違う

でもその速さをどこかで

破っていかないと

他人と上手くやっていけない

他人の速さに合わせなければ

ならない時もあるよね

 

自分の心地よい速さで

自分らしく

生きられるといいのだけれど

 

あんたが止まってみえるのは

表面だけ

身体の中は絶えず動いているんだよ

 

何十兆という細胞が集まって

できている身体は

時に止まっているように見えても

身体の中を血液が巡り

常に動いている 休むことなく

 

人間は生きている限り  

動いているんだよ

 

いつものように

ニラニーラは

僕の人生相談にのってくれた

 

話は変わるけど

僕の家には

寝たきりのおばあちゃんがいる

いつも眠っているように

みえるけれど

時々目を開けて

何か言いたそうにして

また目を閉じてしまう

 

おばあちゃんの身体の中も

動いているのだろうか

生きているのだから

身体の中は

動いているのだろうけれど

 

おばあちゃんは若い時

ダンスが大好きだったそうだ

勤め帰りにダンスホールに通い

終電まで踊っていたんだって

 

でももう踊れないよね

 

そんな僕の小さな呟きに

 

そんなことはないさ

 

ニラニーラは答えてくれた

 

身体のどこかが不自由になっても

その状態を受け入れて

あるがままで生きていけるなら

それは素晴らしいことだよね

 

ベッドに横たわっていても 

身体の中からおこして

踊りは踊れる

 

ニラニーラの自信に満ちた

言葉を信じた僕は

急いで家へ帰ると

スマホでダンス音楽を

おばあちゃんが好きだった

タンゴを聴かせてあげた

 

音楽が鳴り始めてしばらくすると

一瞬おばあちゃんが目を開けた

そして再び閉じてしまったけれど

とても幸せそうな

微笑みを浮かべていた

そして驚いたことに

おばあちゃんの右手の指先が

微かに動いた

二度 三度と 動いた

 

おばあちゃんは身体の中で

踊っていた

おばあちゃんはベッドの中で

自由だった

 

マリリンホイホイ マリリンホイ


どこかでニラニーラの声がした


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百日紅の女将

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